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執筆者の写真Hiroki Sato, MS, ATC, CR

胸郭

更新日:2019年11月12日


前回投稿の後、詳しく胸郭を復習していました。呼吸を屈曲・伸展で評価することで胸椎、肋骨の評価をする方法は本当に素晴らしく、骨盤・頭蓋と同時に胸郭も素早く的確にどういう状態かわかるようになりました。復習している中で別のことにも気づいたので、備忘録として書いておきます。わかる人に参考になれば幸いです。

基礎解剖

胸郭といっても、一つの塊ではなく、胸椎・肋骨・胸骨で構成されていて、胸椎は12個。肋骨も左右にそれぞれ12本あります。肋骨の2〜10番は椎体部で胸椎二つと関係していて(肋骨5番は胸椎5番と胸椎4番)、肋椎関節と肋横突関節の二つが後面、そして前面では胸骨と肋骨肋軟骨連結で繋がっています。画像はプロメテウス解剖学アトラス解剖学総論・運動器系より。




この図をみてもらっても分かるように肋骨と胸椎の関係が深いで、肋骨に機能不全がある場合は胸椎にも機能不全がある場合が多いです。この関係性から肋骨を通してMMETでは胸椎を評価するようになったとKai先生は言っていました。

胸椎右回旋に伴う肋骨の動き


胸椎が右回旋すると、右肋骨は外旋して、左肋骨は内旋します。つまり、右肋骨は吸気位、左肋骨は呼気位になるわけですね。

また、胸椎関節面に機能不全があり右回旋してしまっている場合(ニュートラルに戻れない場合)、つまり病変がある場合は右が伸展位か左が屈曲位かのどちらかになります。


iPad Proで書き書き。右回旋の時の状態をまとめると↑のようになります。

ERSRはExtended, Rotated, Sidebended, Right(伸展・回旋・側屈・右)。

伸展位にあるため、胸椎右側が屈曲できず、肋骨が呼気にいけないので息が吐きづらい。

FRSRはFlexed, Rotated, Sidebended, Right(屈曲・回旋・側屈・右)。

屈曲位にあるため、胸椎左側が伸展できず、肋骨が吸気にいけないので息が吸いづらい。

左右どちらに制限があるか評価する為に、胸椎の屈曲・伸展で呼吸機能(すなわち肋骨の動き)をみることで胸椎の状態をチェックできます。深呼吸をしてもらった時の胸郭の動きからどこら辺に制限がありそうか推測することもできます。

胸椎屈曲位で呼吸して肋骨が動かない場合は胸椎が伸展位、つまり屈曲できない

胸椎伸展位で呼吸して肋骨が動かない場合は胸椎が屈曲位、つまり伸展できない

また、

胸椎が伸展位の場合は肋骨が吸気位になるので、呼気制限

胸椎が屈曲位の場合は肋骨が呼気位になるので、吸気制限

になります。

両方とも肋骨の動かない側の胸椎関節面に屈曲または伸展制限があります。

しかし、伸展位と屈曲位の際で胸椎の回旋方向が変わってくるので、ちょっとややこしいですが肋骨の動きと回旋の方向は次のような関係性になります。

胸椎屈曲で制限がある場合、回旋方向と肋骨が動かない側は同側

例:胸椎屈曲で肋骨制限=胸椎伸展位=胸椎回旋

胸椎伸展で制限がある場合、回旋方向と肋骨が動かない側は対側

例:胸椎伸展で肋骨制限=胸椎屈曲位=胸椎回旋

この情報は、回旋を中立位にもっていく際にどちら側に回旋・側屈させるか考える際に必要になります。軟部組織にワークする際でも、一度胸椎・肋骨を中立位にもっていく方がそのエリアが緩むので、必要ないことをしなくて済む印象があります。

ちなみに、

呼気制限の場合、一番下の肋骨が鍵です。

吸気制限の場合、一番上の肋骨が鍵です。

これは、上部肋骨が吸気の際に動かないとそこより下の肋骨も上方に動けないからです。呼気の場合は逆です。クラスでは、胸椎伸展位と屈曲位を肋骨の吸気と呼気と関係付けて考えていませんでしたが、理論上はこの考えで評価していっても問題ないと思います。これに関しては自分の考えなので間違っていたら教えて下さい。

まとめると、

屈曲して呼吸制限がある場合:

位置:胸椎伸展、肋骨吸気、胸椎は肋骨制限と同側回旋。

制限:胸椎屈曲、肋骨呼気。

アプローチ:一番下で制限のある肋骨・胸椎から。

伸展して呼吸制限がある場合:

位置:胸椎屈曲、肋骨呼気、胸椎は肋骨制限と対側回旋。

制限:胸椎伸展、肋骨吸気。

アプローチ:一番上で制限のある肋骨・胸椎から。

脊柱は胸椎以外でもそうですが、いちいち施術中にメカニクスを考えてると混乱してくるので、自分の中でルールを作ってしまって、片方を覚える方法が頭がスッキリします。右回旋と伸展位のケースを覚えておけば、あとは回旋が左の場合と屈曲位の場合は逆にしていけば良いですね。

胸郭で他に考えないといけないこと

上記は片側病変の例ですが、もちろん両側に制限がある場合もあります。両側伸展位または屈曲位でそれも長期間その状態な場合、肋骨も吸気位または呼気位の状態が長く肋間腔のスペースも上下肋骨と比べたら異なり、軟部組織も硬くなっているケースが多いです。ここでは一つの分節で胸椎と肋骨をみていますが、もちろんペアで複合的に病変があるケースもあります。

胸椎屈曲位と伸展位の両方で肋骨が呼吸と共に動かない場合、胸椎の病変ではなく肋骨自体の位置がずれている可能性が高いです。その場合は胸椎ではなく肋骨の位置を直す必要があります。

また、長期間にわたる機能不全や外傷などで骨の形状自体が変化してしまっている場合、関節の機能不全と同時に骨そのものにアプローチする必要があります。胸椎上部・頚椎下部椎弓と肋骨の変形は、案外多いですね。

ここまでは骨格系での話ですが、胸郭の内側にはスペースとして縦隔。胸膜、心膜などの結合組織。そしてもちろん肺・心臓などの臓器とその周辺の大血管やリンパ系など色々と考慮しないといけないものが多いです。外側の筋筋膜系も上肢に関わる大胸筋、小胸筋、僧帽筋、前鋸筋などは胸郭上部の位置と肋骨の動きに大きく関わってきますし、肋骨下部は腹斜筋群や脊柱起立筋、第12肋骨では腰方形筋と、骨盤にもダイレクトに影響しますね。また、分節で見ていった時には、胸椎周辺の多裂筋や回旋筋などの横突棘筋群も考慮しつつ、肋骨に関係する肋間筋などもアプローチしてあげると良い結果がでる印象があります。

姿勢との関係

最後に、ここまでの情報をロルフィング的な視点に統合していきましょう。

腰が反りすぎの人は、胸椎伸展位になっていて息を常に吸っている状態で、しっかり吐けない人が多いですね。つまり、赤文字の屈曲して呼吸制限がある人に当てはまります。常に交感神経優位の闘争・逃走状態で副腎オーバーロード気味な方にもそういう人は多いです。ずっと吸ってるということは横隔膜がリラックスできないので、横隔膜周辺が硬くなり、特に脚部がリラックスできていないと腰椎3番まで腰椎が伸展位でロックしてしまいます。

また、しっかり吐けない状態で息を吸い続けようとしていると、呼吸補助筋も過緊張してきます。腰(胸腰移行部)が前方に行く反対に首の付け根(胸頚移行部)が後方に移動してきて、胸郭出口、胸郭入口、頚椎などに機能不全が起こることも多いです。そこから首の痛み、手の痺れ、四十肩などに繋がっていくケースもありますね。常に首、肩周りに手が入ってしまう人は、実は腰の上の方に手を当てて、呼吸をしっかり吐いてもらったほうが楽になるかもしれません。


逆に青文字の伸展して呼吸制限がある人は、しっかり胸郭で呼吸をするのが苦手です。上部肋骨が呼吸で全く動かないので、斜角筋が動かそうと頑張っているケースもあります。いわゆる猫背の姿勢になりがちですね。最近のスマホやコンピューターを使う時の姿勢もそれに当てはまります。この状態は吐くことはできても吸うことができないので、体が滞りやすくなってしまいます。横隔膜の収縮と、それに伴い胸郭のスペースが開くことで胸郭内が陰圧になると、空気が入るだけでなく体液循環も促します。それによって、むくみや冷えなども解消されますし、老廃物の代謝と栄養分の供給もうまくいくようになるので免疫系にも良い影響がでますね。

結局、呼吸を確り吸って、吐いて、というのができると良い訳です。呼吸法などをしていてもなかなか上手くいかない場合は、上記のような機能不全が原因の時もあるので、自分で頑張ってなんとかしようとする前に、一度知識がある人に確認してもらうと良いと思います。

呼吸することなく人は生きていくことはできません。しっかり呼吸ができるようになると、体全体の循環活動も活性化し、バイタリティも向上してきます。脳に酸素がしっかり供給されるようになったら、頭の働きもよくなるでしょう!ロルフィング10シリーズは、第1セッションのテーマが呼吸ですが、10シリーズを通して体全体に呼吸がしっかり入っていくようにしていくプロセスです。体全体に呼吸が入るようになればなるほど、体は柔らかくなり、1日の疲れも貯まりづらくなり、朝起きた時にスッキリするようになりますね。

今回胸郭のメカニクスを改めて復習し、まとめながら考え直すことでまた新しい一面が見えた気がします。最近は季節の変わり目で消化器系の調子が悪い人も多いようです。残り少なくなった一年を乗り切るために、胸郭全体で呼吸をして毎日快適に過ごしましょう!!

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